2025年06月01日の院外活動

2025年06月01日 国内学会発表・講演

第12回 日本眼形成再建外科学会(京都)

詳細情報

今回、京都(京都府立医科大学内ホール)で行われた

日本眼形成再建外科学会

シンポジウム:形成外科と眼科の教学相長 にて

「眼表面を考慮した眼瞼下垂手術」について、解説させていただきました。

コメント

眼瞼下垂の術後、一時的にドライアイの症状が現れたり、もともとあったドライアイが悪化したりすることがよくあります。

そのため、手術前後で角膜や結膜に傷(以後:SPK)ができていないかを確認しておくことが重要です。

また、もし手術前から明らかなドライアイがある場合には、まず点眼などによる治療を優先して行うべきです。

瞳孔の中央から上まぶたの縁までの距離のことをMRDといいます。(以後:MRD)

従来のMRDの測定方法はペンライトと定規を使って肉眼で測定します。

論文上では0.5mm単位で判別可能とされますが、実際にはそれほど精密に見るのは難しく、1mm単位が現実的です。

この方法で、眼瞼下垂の程度を「軽度」「中等度」「重度」と把握できます。

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また、細い光(細隙灯)を使って拡大しながら測る方法では、0.5mm単位までは測れます。

ただし、被検者にとって眩しく、正確に測るのは困難です。

当院では、アイドラ(SBM社)による測定を取り入れています。

この方法は赤外線を使うため眩しくなく、0.1mm単位で測定できます。

手術を行う前後で3回測り、その中央値を採用することで、

より正確な数値が得られるため、患者さんへの説明にも有用です。

 

術後の数週間は、ドライアイの症状が出ることがありますが、多くの場合は数か月以内に症状が落ち着くとされています。

当院の手術では、術後の一時的なドライアイを危惧し、高齢者のMRDを一律に低めには設定せず、

患者さんに合わせてMRD=3~4mmを基準に目標を設定をしています。

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また、手術方法により術後のSPKの出現が異なります。

【挙筋腱膜前転法】

この方法は、硬い挙筋腱膜という筋肉の膜を前に引っ張って固定する手術です。

デメリットとして、術後は、まぶたのカーブが急峻になりやすく、

微調整が難しいという特徴があります。

中等度以上の眼瞼下垂にこの方法を行った場合、

術後にSPKが多く見られる傾向があります。

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【ミュラー筋タッキング】

この方法では、柔らかいミュラー筋だけを縫って固定するため、

より自然な仕上がりになりやすいです。

まぶたのカーブがなだらかで、調整もしやすいのが特徴です。

中等度以上の眼瞼下垂に対しても、術後のSPKが少ないことも特徴です。

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しかし、ミュラータッキングのデメリットとして、再発率の高さが挙げられます。

ミュラー筋を縫い縮めるだけでは開瞼の維持が難しく、術後すぐに眼瞼下垂が戻ってしまうことがあります。

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ミュラー筋タッキングで再発する典型的なパターンは2つです。

①軽度な眼瞼下垂に少量幅(6mm程度)のミュラー筋をタッキングした場合

②重度な眼瞼下垂で、ミュラー筋が非常に薄く、術中に結膜が透けて見えている症例に大幅(12mm~)なミュラー筋をタッキングした場合

この2つのパターンは早期に眼瞼下垂が再発します。

 

 【ミュラー筋タッキングと挙筋腱膜前転を併用した術式】

「ミュラー筋タッキング」と「挙筋腱膜前転法」を組み合わせた併用の術式では、まずミュラー筋を2点でタッキングし、ベースをつくります。

そのうえで、挙筋腱膜を1点だけ追加固定することで、まぶたのカーブや高さを微調整していきます。

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なお、この術式ではミュラー筋と瞼結膜の間を剥がさずに行うため、従来の「挙筋短縮術」とは異なり、結膜側の局所麻酔は不要です。

そのため、低侵襲で術中の腫脹も少なく、開瞼幅の術中定量と術後の結果に差が出にくいことが特徴です。

この2つの術式を組み合わせることで、自然なカーブを持つまぶたをつくりながらも、開瞼力をしっかり確保できます。

また、ミュラー筋タッキングをベースとしているため、挙筋腱膜前転法単独と比べて、術後のSPKも少ない傾向にあります。

さらに、この術式のもう一つのメリットは、術後の左右差に対する再調整が非常に簡便であることです。

手術から10日ほど経過した時点で、左右のまぶたの開きに1mm以上の差がある場合には、前転した腱膜の1点だけを短時間で再固定する調整が可能です。

ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併用は、自然な見た目や、安定した開瞼、SPKの予防、術後の再調整のしやすさというメリットがあります。

 

術後にSPKが起こる原因として、①涙液貯留量の減少、②瞬目の変化が考えられます。

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手術によってまぶたがよく開くようになると、目の表面に貯まっている涙が減ることが報告されています。

これは、涙の排出を促す涙道のポンプ機能が強く働くようになることが考えられます。

また、 手術によってまぶたを開く筋肉(眼瞼挙筋)が強くなる一方で、閉じる筋肉(眼輪筋)の働きが一時的に弱まります。

そのため、術後早期は目を完全に閉じきれない「不完全瞬目」が増える傾向があります。

このため、涙が蒸発しやすくなり、SPKの原因となります。

 

変化を正確に捉えるには、瞬きの動きを測定し分析することが大切です。

当院では、冒頭でも紹介したアイドラ(SBM社)を瞬目検査機器としても使用しています。

瞬きの様子を動画で撮影し評価することができます。

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術後1〜2ヶ月経つと、瞬きは元に戻ってきます。

特にミュラー筋タッキングでは、2ヶ月後には術前とほぼ同じ程度に回復します。

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一方で、挙筋腱膜前転法では2ヶ月経っても不完全瞬目が多く残存していることがわかります。

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挙筋腱膜前転法は、術後にまぶたが完全に閉じづらくなる「閉瞼不全」や、ドライアイが生じやすいという課題があります。

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こうした課題に対する改善策として、挙筋腱膜の外側(lateral horn)を切離してから前転するという方法が有用と考えられます。

これによって、腱膜の伸展性が向上し、その結果、術後のまぶたの開き具合を確保しつつも、閉瞼不全のリスクを軽減できるものと思われます。

 

ドライアイが悪化しやすい症例として、注意すべき2つのパターンを挙げると

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緑内障の点眼薬(PG剤:ラタノプロストなど)を長期間使用し、上まぶたのくぼみ(DUES)がある方は、

通常よりも涙液貯留量が少なく、術後さらに涙が減ることが報告されています。

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このタイプの症例では、術後早期のSPKの悪化が予想されるため、ドライアイの点眼だけではなく、

当院では、術後1週間は就寝前の眼軟膏の点入をお勧めしています。

 

また、術前から上まぶたと目の表面がこすれて起こる上輪部角結膜炎(SLK)がある方は、術後に悪化するリスクがあります。

特に、眼球が突出する症例(甲状腺眼症など)にはSLKが見られることがあるため、要注意です。

この場合も、目薬のみではなく、涙点プラグ(涙が目に留まる処置)などの治療を検討します。

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どの手術方法を選ぶにしても、

眼瞼下垂手術は目の表面(オキュラーサーフェス)に影響を与える手術です。

そのため、手術前と手術後の目の表面の状態をしっかりと確認し、

必要に応じて適切な治療を行うことがとても重要です。

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