2024年10月29日 執筆著書
あたらしい眼科 特集 眼瞼形成手術
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特集 眼瞼形成手術のAB▶Z
「眼瞼下垂症手術(Müller筋タッキング)」
Vol.41, No.10, P1167~1171, 2024
あたらしい眼科 林 憲吾
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眼瞼の筋肉(以後挙筋)は,挙筋腱膜とMüller筋に分かれ、瞼板という部位に付着しています。挙筋の収縮が瞼板に伝わることにより、目が開きます。
眼瞼下垂は、挙筋(挙筋腱膜とMüller筋)が薄くなったり、伸びたりすることにより筋肉の収縮が瞼板に伝わらない、あるいは挙筋群の変性や欠損によりその収縮性が低下していることが原因です。
そのため、開瞼の程度に合わせた手術が必要となります。また、挙筋機能がない重度の場合には前頭筋吊り上げ術が必要です。
本稿では、Müller筋タッキングを中心に解説しました。
①Müller筋タッキング(Müller’s muscle tucking)
挙筋腱膜とMüller筋の間を剥離し、Müller筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式です。
筋肉を動かす目安は、瞼板を引っ張って固定した状態で、瞼板から軽度で8mm、中等度で10mm、重度で12mm程度です。
Müller筋は柔らかく進展性がある組織のため、瞼縁が自然なカーブになりやすく、調整も挙筋腱膜前転より容易です。
また、中等度以上の眼瞼下垂でも目が閉じられなくなってしまう等の閉瞼不全は生じにくく、術後に起こる角膜の傷損が少ないのも特徴的です。
しかし、Müller筋タッキング法は極軽度な症例に少量のタッキングを行うと早期に再発する傾向があります。
そのため、極軽度な症例の場合は、挙筋腱膜前転法を施行しても角膜の傷損は少なく、再発も少ない挙筋腱膜前転法のほうが適していると考えられます。
また重度でMüller筋が非常に薄くなっている場合、12mm以上タッキングすると術中は大きく開瞼しますが、
術後早期に再下垂することが多いため、Müller筋タッキングは、中等度の眼瞼下垂に適していると考えられます。
➁Müller筋タッキングと挙筋腱膜前転法の併施術
挙筋腱膜とMüller筋の両者を前転する術式として,挙筋短縮術はスタンダードな術式ですが、挙筋短縮術には、瞼結膜とMüller筋の間を剥離する必要があり、局所麻酔の追加を行うため、術中に腫脹があり、手術中と術後開瞼の差が生じることがあります。
そこで挙筋短縮術の代用として、Müller筋タッキング(2点)を施行し、追加で挙筋腱膜の後面から腱膜の眼縁のカーブを確認し、腱膜後面から瞼板へ前転(1点)を追加する方法を解説します。
この術式は手術中と術後開瞼の差が生じにくく、比較的短時間で行えるため、患者様にとって負担が少ないのが特徴です。また脂肪の切除が必要な場合は、適量の脂肪を切除することも可能です。
また、Müller筋2点のタッキングでおおまかな開瞼の幅と形を決めて、挙筋腱膜(1点)を動かす量と瞼板に固定する位置によって、開瞼幅と瞼縁のカーブを微調整することが可能です。
さらに、術後1~2週間の抜糸時に,開瞼の左右差が1mm程度認められた際,挙筋腱膜の1点の再調整が5分程度で容易に施行可能です。
当院の調査では、Müller筋タッキング(2点)では開瞼不足な症例が12%にみられましたが、挙筋腱膜の後面から腱膜の前転(1点)を追加することにより、そのうち約90%の症例で開瞼幅の改善が得られました。また、腱膜前転も併用しているため、下垂の再発予防効果も期待できます。
また、低矯正となりやすい先天性の場合も、軽度から中等度であれば、挙筋短縮術と同様に、本術式も有用だと考えられます。
どの術式にも、メリット・デメリットはありますが、症例の重症度などを考慮し、最適な術式を選択することが大切です。
当院では、主にMüller筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併施術を行っておりますが、
・極軽度→挙筋腱膜前転法
・中等度→Müller筋タッキング
・中等度から重度→Müller筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併施術
・挙筋機能のない最重度→前頭筋つり上げ術
を選択するなど患者様一人ひとりに合わせた術式を熟考し、選択しています。