2025年05月07日 筆頭和論文
日本眼科手術学会誌
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「自発性瞬目測定時の瞬目基準の設定」
Vol.38, No.2, P308~309, 2025
日本眼科手術学会誌 林 憲吾
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アイドラ(SBM Sistemi社)は一般的にはドライアイに対する検査機器ですが、光干渉を利用した涙液油膜の厚みの測定のほか、まばたきを動的に撮影し、まばたきの程度を定量化することが可能です。
当院における眼瞼下垂の手術前後の自発性瞬目検査について報告しました。
アイドラは、24フレーム/秒で上眼瞼の動きを撮影し、非侵襲的で簡便に瞬目を検査することができます。
瞬目としてカウントされる基準を開瞼幅の中央値に再設定することで、異常な瞬目回数と不完全瞬目と判定される割合が減少し、臨床的に妥当な数値として、扱うことができることを報告しました。
2025年05月07日 執筆著書
「動画&イラスト&写真でわかる眼瞼手術の極意」advance
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「動画&イラスト&写真でわかる眼瞼手術の極意 advance」 著書 小久保 健一
「ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転術」 林 憲吾 P48~P56
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当院の基本術式としている「ミュラー筋タッキング(2点)+挙筋腱膜前転(1点)」の適応と手術方法について解説しました。
眼瞼下垂症の手術で代表的な術式はいくつかありますが、
当院の主な眼瞼下垂症の術式は、
・挙筋腱膜前転法
・ミュラー筋タッキング
・ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転
の3つです。
ミュラー筋は柔らかく伸展性がある組織のため、術後の瞼が自然なカーブになりやすいのが特徴です。
しかし、ミュラー筋のみでは再発率が高いことが報告されております。
眼瞼下垂症が重度の症例、特にミュラー筋が薄い症例ではミュラー筋タッキングのみでは再発しやすいため、挙筋腱膜の前転も追加で行う必要があります。
ゴールドスタンダートとされている「挙筋群短縮術」は挙筋腱膜とミュラー筋の両者を前転する方法です。
しかし、デメリットとしてミュラー筋と瞼結膜の剥離をする必要があり、結膜とミュラー筋の間を剥離する操作の前に局所麻酔の追加が必要です。麻酔を追加することで、術中と術後の状態に差が生じる場合があります。
ミュラー筋タッキング(2点)+挙筋腱膜前転(1点)では、挙筋群短縮術の際に行う、ミュラー筋と瞼結膜の間を剥離をする必要はないので、より低侵襲な術式だといえます。
ミュラー筋を2点固定し、大まかな開瞼幅と自然な瞼縁のカーブを確認し、挙筋腱膜の1点の前転量と固定位置により、開瞼幅とカーブを微調整します。
2025年04月29日 国内学会発表・講演
第129回 日本眼科学会総会(東京)教育セミナー
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教育セミナー「眼瞼診療の黄金律~どう治療すれば喜ばれるのか~」
今回、東京で行われた日本眼科学会総会の教育セミナーにて、
「眼瞼下垂症手術とドライアイ」について解説いたしました。
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眼瞼下垂の手術を行った後に、一時的ではありますが、
ドライアイが生じたり、もともとのドライアイが悪化したりするケースをしばしば経験します。
特に術前に角結膜上皮障害(SPK)があるかどうか、
その程度をしっかり把握しておくことが、術後の経過を予測するうえでとても重要です。
もし手術前から明らかにドライアイがある場合は、
まず点眼治療などによって状態を整えることを優先すべきと考えます。
眼瞼下垂の手術では、
瞳孔の中心から上まぶたのふちまでの距離(MRD:Margin Reflex Distance)を広げますが、
この距離がある程度以上に広がると、SPKが起こりやすくなります。
国内の既報では、高齢者はMRDの増加が2.0mm以内であると、より安全であると報告があります。
当院の瞼下垂の手術では、MRDを3〜4mm程度に調整することが多いですが
患者さんの年齢や術式に応じて設定することが重要と思われます。
また、術式によっても術後のドライアイの発生は異なります。
挙筋腱膜前転法は、まぶたをしっかりと引き上げることが可能ですが、
まぶたのふちのカーブが急峻になりやすく、非常に細かい調整が必要であり、
術後早期にSPKが多く、その後半年ほどで徐々に改善する傾向が見られます。
硬い挙筋腱膜を前転するこの術式では、SPKのリスクが高まるため、
腱膜を大幅に前転し、2~3か所固定する場合は、
腱膜外角に減張切開を加えて伸展性を改善するなどの工夫が必要です。
一方、ミュラー筋タッキングは、より自然なまぶたのカーブを作りやすく、調整もしやすい術式です。
術後にドライアイが出にくく、まばたきの浅さ(不完全瞬目)も比較的早い段階で改善します。
ただし、術後1年で挙筋腱膜前転法より再下垂率が高いことも報告されております。
術後のドライアイの主な原因は、涙の量が減ってしまうことと、まばたきが浅くなることです。
まず、涙液の貯留量が減少することが報告されております。
もう一つの原因として、手術の直後、まばたきが浅くなってしまうこと(不完全瞬目)です。
これらの原因が重なることで、角膜や結膜に傷がつきやすくなり、SPKが発症します。
ドライアイが悪化しやすい例として、上輪部角結膜円(SLK)がある症例と緑内障点眼を使用中の症例が挙げられます。
まず、SLK(上輪部角結膜炎)が元々ある患者さんや甲状腺眼症など眼球突出のあるの患者さんでは、
手術後に上まぶたと眼球表面との摩擦が強くなって、SLKが悪化することがあります。
そのため、術前にしっかりと確認し、点眼のみではなく、涙点プラグも検討します。
また、緑内障の治療でPG系の点眼薬(プロスタグランジン関連薬)を使用している場合、
涙がもともと少なく、術後にドライアイが悪化しやすくなることが報告されております。
このような場合は、防腐剤の入っていない点眼薬に切り替えたり、
手術の際にまぶたの挙上量を控えめにしたり、
術後1週間は就寝前に眼軟膏を点入するなどの対応が必要です。
今回は、眼瞼下垂症手術で起こりうるドライアイに対し、
術前後の対策について解説させていただきました。
2025年02月28日 執筆著書
OCULISTA:眼瞼手術の勘どころ 「眼瞼下垂とドライアイ」
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OCULISTA
眼瞼手術の勘どころ-視機能・整容・再手術-
「眼瞼下垂とドライアイ」
No.143 P14-21.2025
林 憲吾
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眼瞼下垂手術とドライアイについて解説しました。
眼瞼下垂症は、瞼の筋肉が伸びることや、加齢により薄くなること、
脂肪の変性や欠損により挙筋機能が低下することが原因です。
近年の高齢化社会に伴い、高齢者の加齢による眼瞼下垂症は
今後もさらに増加することが予想されます。
瞼の筋肉を動かす眼瞼下垂症の術後は、
一時的に瞼の閉じにくさ(閉瞼不全)、ドライアイの発症や悪化することがあります。
術後の1~2ヶ月は、瞬目(まばたき)が浅く、ドライアイが出やすい期間ですが、
術後の3ヶ月~6ヶ月間に、瞬目も深くなり、ほとんどが軽快します。
そのため、手術前後にドライアイの有無を確認することが重要です。
手術前に明らかなドライアイを確認した場合は、まずはドライアイの治療を優先します。
点眼治療で改善が見られない場合や、緑内障多剤点眼使用中の方は術後早期からドライアイが
著名に悪化する傾向にあるので、涙点プラグ挿入術などの積極的な治療を推奨します。
術者として、術中の開瞼幅の増加のみでなく、
ドライアイの悪化や閉瞼不全、オキュラーサーフェス(眼表面)への影響を考慮した術式を
患者さんに合わせて選択することが重要であると考えられます。
2025年01月27日 国内学会発表・講演
第48回 日本眼科手術学会学術総会 (横浜)
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教育セミナー
日帰り眼瞼手術 「眼瞼下垂、内反症の手術」林 憲吾
今回、日本眼科手術学会の教育セミナーの眼形成分野で、
眼瞼下垂と内反症手術について解説させていただきました。
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眼瞼下垂症の手術で代表的な術式はいくつかありますが、
当院の主な眼瞼下垂症の術式は、
・挙筋腱膜前転法
・ミュラー筋タッキング
・ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法
の3つです。
極軽度には、挙筋腱膜前転法、
中等度以上には、ミュラー筋タッキングをベースとして、
中等度~重度には、ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法、
最重度には、前頭筋吊り上げ術
と、眼瞼下垂の症状の程度によって術式を選択しています。
挙筋腱膜前転法は、挙筋腱膜の裏面から通糸し、前転固定します。
極軽度な症例の場合は、挙筋腱膜前転法を施行しても角膜の上皮障害は少なく、再発も少ない挙筋腱膜前転法のほうが適していると考えられます。
ミュラー筋タッキングは、挙筋腱膜とミュラー筋の間を剥離し、ミュラー筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式です。
ミュラー筋は柔らかく進展性がある組織のため、瞼縁が自然なカーブになりやすく、調整も挙筋腱膜前転より容易です。
また、中等度以上の眼瞼下垂でも閉瞼不全は生じにくく、術後に起こる角膜の上皮障害が少ないのも特徴的です。
しかし、ミュラー筋タッキング法は極軽度な症例に少量のタッキングを行うと早期に再発する傾向があります。
術後約1年での再発率は、挙筋腱膜前転法が4%、ミュラー筋タッキングが15%と
ミュラー筋タッキングの方が再発率は高いことが報告されております。
当院で行っているミュラー筋タッキング(2点)+挙筋腱膜前転法(1点)は、
ミュラー筋タッキングでおおまかな開瞼状態を作成し、腱膜前転で微調整します。
加齢や、ハードコンタクトの使用による下垂に対しては、
ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法の適応範囲が広く、当院では主にこの術式を採用しています。
また、若年者の先天性眼瞼下垂に対しても、軽度~中等度であれば、ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法は有効です。
重度で術中に挙筋機能が弱いと判断した場合には、前頭筋吊り上げ術に切り替えます。
手術時間は片側のみ場合約15分と短時間で可能です。
両側の場合は、余剰皮膚切除や脂肪切除と挙筋前転で、左右の開瞼を合わせる必要があるため、約45分が目安となります。
眼瞼下垂の程度を判断するにあたり、開瞼状態の各項目を測定し、客観的に評価することは重要です。
当院では開瞼状態の数値化の為、MRD(開瞼状態)の測定を重要視しております。
肉眼でのメジャーでの測定は1mm単位で、おおよその程度は把握できます。
細隙灯で拡大しての実測は0.5mm単位での測定が可能となりますが、
患者さんは眩しく、メジャーを瞳孔中央に合わせ、ぶれずに測定するのは困難です。
そのため、当院では0.1㎜単位での測定が可能、かつ赤外線の為、患者さんは眩しくない検査機器(アイドラ)で測定を行っています。
客観的数値が測定可能なため、患者様にも説明しやすいことが利点であると思われます。
当院での手術はすべて日帰りの為、帰宅後の安静度などのケアを患者さんが確認しやすいように、
術後の注意点や過ごし方をまとめた表を配布しております。
次に、内反症(逆さまつげ)は大きく分けて、加齢性下眼瞼内反と先天性下睫毛内反です。
加齢による下眼瞼に内反症は瞼板が内転することにより起こります。
当院では第一選択として埋没法を選択しています。
まず、Pinch test(下まぶたを前に引っ張って眼球から離れる距離を測定する検査)で水平方向の弛緩の程度を判断します。
・水平方向の弛緩が正常の場合→垂直方向の埋没法(Everting suture)
2カ所を垂直方向のみ矯正します。
・水平方向の弛緩が明らかな場合→水平方向の埋没法(Wide everting suture)
垂直方向と水平方向を短縮するように1本の糸で広範囲に通糸します。
再発の多いとされてきた垂直方向の埋没法も水平方向の弛緩がない症例には再発率が低く、
また、2種類の埋没法を使い分けることで、埋没法全体の再発率を低く抑えることができます。
埋没法で再発しやすい症例は、水平方向の弛緩が顕著な場合です(割合としては10%程度)。
そのような症例には眼瞼内反症の切開法Lateral tarsal strip(LTS)の追加が必要です。
先天性の下睫毛内反症とは、瞼板の向きは正常で、睫毛が眼球側に内反している状態です。
中等度の下睫毛内反に対しては、切開法のほうが再発は少ないことが無作為比較試験で報告されているため、
当院では、極軽度の症例を除いて、ほぼ全例に切開法(Hotz変法)を施行しております。
また、当院での睫毛内反で再発により再手術を施行した症例は、1.2%でした。
重度な睫毛内反で、下眼瞼牽引が強く、余剰皮膚が顕著な場合、
牽引の解除と多めの余剰皮膚切除で再発の防止を図ります。
内反症の手術は比較的短時間での手術が可能です。
2024年10月29日 執筆著書
あたらしい眼科 特集 眼瞼形成手術
詳細情報
特集 眼瞼形成手術のAB▶Z
「眼瞼下垂症手術(Müller筋タッキング)」
Vol.41, No.10, P1167~1171, 2024
あたらしい眼科 林 憲吾
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眼瞼の筋肉(以後挙筋)は,挙筋腱膜とMüller筋に分かれ、瞼板という部位に付着しています。挙筋の収縮が瞼板に伝わることにより、目が開きます。
眼瞼下垂は、挙筋(挙筋腱膜とMüller筋)が薄くなったり、伸びたりすることにより筋肉の収縮が瞼板に伝わらない、あるいは挙筋群の変性や欠損によりその収縮性が低下していることが原因です。
そのため、開瞼の程度に合わせた手術が必要となります。また、挙筋機能がない重度の場合には前頭筋吊り上げ術が必要です。
本稿では、Müller筋タッキングを中心に解説しました。
①Müller筋タッキング(Müller’s muscle tucking)
挙筋腱膜とMüller筋の間を剥離し、Müller筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式です。
筋肉を動かす目安は、瞼板を引っ張って固定した状態で、瞼板から軽度で8mm、中等度で10mm、重度で12mm程度です。
Müller筋は柔らかく進展性がある組織のため、瞼縁が自然なカーブになりやすく、調整も挙筋腱膜前転より容易です。
また、中等度以上の眼瞼下垂でも目が閉じられなくなってしまう等の閉瞼不全は生じにくく、術後に起こる角膜の傷損が少ないのも特徴的です。
しかし、Müller筋タッキング法は極軽度な症例に少量のタッキングを行うと早期に再発する傾向があります。
そのため、極軽度な症例の場合は、挙筋腱膜前転法を施行しても角膜の傷損は少なく、再発も少ない挙筋腱膜前転法のほうが適していると考えられます。
また重度でMüller筋が非常に薄くなっている場合、12mm以上タッキングすると術中は大きく開瞼しますが、
術後早期に再下垂することが多いため、Müller筋タッキングは、中等度の眼瞼下垂に適していると考えられます。
➁Müller筋タッキングと挙筋腱膜前転法の併施術
挙筋腱膜とMüller筋の両者を前転する術式として,挙筋短縮術はスタンダードな術式ですが、挙筋短縮術には、瞼結膜とMüller筋の間を剥離する必要があり、局所麻酔の追加を行うため、術中に腫脹があり、手術中と術後開瞼の差が生じることがあります。
そこで挙筋短縮術の代用として、Müller筋タッキング(2点)を施行し、追加で挙筋腱膜の後面から腱膜の眼縁のカーブを確認し、腱膜後面から瞼板へ前転(1点)を追加する方法を解説します。
この術式は手術中と術後開瞼の差が生じにくく、比較的短時間で行えるため、患者様にとって負担が少ないのが特徴です。また脂肪の切除が必要な場合は、適量の脂肪を切除することも可能です。
また、Müller筋2点のタッキングでおおまかな開瞼の幅と形を決めて、挙筋腱膜(1点)を動かす量と瞼板に固定する位置によって、開瞼幅と瞼縁のカーブを微調整することが可能です。
さらに、術後1~2週間の抜糸時に,開瞼の左右差が1mm程度認められた際,挙筋腱膜の1点の再調整が5分程度で容易に施行可能です。
当院の調査では、Müller筋タッキング(2点)では開瞼不足な症例が12%にみられましたが、挙筋腱膜の後面から腱膜の前転(1点)を追加することにより、そのうち約90%の症例で開瞼幅の改善が得られました。また、腱膜前転も併用しているため、下垂の再発予防効果も期待できます。
また、低矯正となりやすい先天性の場合も、軽度から中等度であれば、挙筋短縮術と同様に、本術式も有用だと考えられます。
どの術式にも、メリット・デメリットはありますが、症例の重症度などを考慮し、最適な術式を選択することが大切です。
当院では、主にMüller筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併施術を行っておりますが、
・極軽度→挙筋腱膜前転法
・中等度→Müller筋タッキング
・中等度から重度→Müller筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併施術
・挙筋機能のない最重度→前頭筋つり上げ術
を選択するなど患者様一人ひとりに合わせた術式を熟考し、選択しています。