2025年02月28日 執筆著書
OCULISTA:眼瞼手術の勘どころ 「眼瞼下垂とドライアイ」
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OCULISTA
眼瞼手術の勘どころ-視機能・整容・再手術-
「眼瞼下垂とドライアイ」
No.143 P14-21.2025
林 憲吾
コメント
眼瞼下垂手術とドライアイについて解説しました。
眼瞼下垂症は、瞼の筋肉が伸びることや、加齢により薄くなること、
脂肪の変性や欠損により挙筋機能が低下することが原因です。
近年の高齢化社会に伴い、高齢者の加齢による眼瞼下垂症は
今後もさらに増加することが予想されます。
瞼の筋肉を動かす眼瞼下垂症の術後は、
一時的に瞼の閉じにくさ(閉瞼不全)、ドライアイの発症や悪化することがあります。
術後の1~2ヶ月は、瞬目(まばたき)が浅く、ドライアイが出やすい期間ですが、
術後の3ヶ月~6ヶ月間に、瞬目も深くなり、ほとんどが軽快します。
そのため、手術前後にドライアイの有無を確認することが重要です。
手術前に明らかなドライアイを確認した場合は、まずはドライアイの治療を優先します。
点眼治療で改善が見られない場合や、緑内障多剤点眼使用中の方は術後早期からドライアイが
著名に悪化する傾向にあるので、涙点プラグ挿入術などの積極的な治療を推奨します。
術者として、術中の開瞼幅の増加のみでなく、
ドライアイの悪化や閉瞼不全、オキュラーサーフェス(眼表面)への影響を考慮した術式を
患者さんに合わせて選択することが重要であると考えられます。
2025年01月27日 国内学会発表・講演
第48回 日本眼科手術学会学術総会 (横浜)
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教育セミナー
日帰り眼瞼手術 「眼瞼下垂、内反症の手術」林 憲吾
今回、日本眼科手術学会の教育セミナーの眼形成分野で、
眼瞼下垂と内反症手術について解説させていただきました。
コメント
眼瞼下垂症の手術で代表的な術式はいくつかありますが、
当院の主な眼瞼下垂症の術式は、
・挙筋腱膜前転法
・ミュラー筋タッキング
・ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法
の3つです。
極軽度には、挙筋腱膜前転法、
中等度以上には、ミュラー筋タッキングをベースとして、
中等度~重度には、ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法、
最重度には、前頭筋吊り上げ術
と、眼瞼下垂の症状の程度によって術式を選択しています。
挙筋腱膜前転法は、挙筋腱膜の裏面から通糸し、前転固定します。
極軽度な症例の場合は、挙筋腱膜前転法を施行しても角膜の上皮障害は少なく、再発も少ない挙筋腱膜前転法のほうが適していると考えられます。
ミュラー筋タッキングは、挙筋腱膜とミュラー筋の間を剥離し、ミュラー筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式です。
ミュラー筋は柔らかく進展性がある組織のため、瞼縁が自然なカーブになりやすく、調整も挙筋腱膜前転より容易です。
また、中等度以上の眼瞼下垂でも閉瞼不全は生じにくく、術後に起こる角膜の上皮障害が少ないのも特徴的です。
しかし、ミュラー筋タッキング法は極軽度な症例に少量のタッキングを行うと早期に再発する傾向があります。
術後約1年での再発率は、挙筋腱膜前転法が4%、ミュラー筋タッキングが15%と
ミュラー筋タッキングの方が再発率は高いことが報告されております。
当院で行っているミュラー筋タッキング(2点)+挙筋腱膜前転法(1点)は、
ミュラー筋タッキングでおおまかな開瞼状態を作成し、腱膜前転で微調整します。
加齢や、ハードコンタクトの使用による下垂に対しては、
ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法の適応範囲が広く、当院では主にこの術式を採用しています。
また、若年者の先天性眼瞼下垂に対しても、軽度~中等度であれば、ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法は有効です。
重度で術中に挙筋機能が弱いと判断した場合には、前頭筋吊り上げ術に切り替えます。
手術時間は片側のみ場合約15分と短時間で可能です。
両側の場合は、余剰皮膚切除や脂肪切除と挙筋前転で、左右の開瞼を合わせる必要があるため、約45分が目安となります。
眼瞼下垂の程度を判断するにあたり、開瞼状態の各項目を測定し、客観的に評価することは重要です。
当院では開瞼状態の数値化の為、MRD(開瞼状態)の測定を重要視しております。
肉眼でのメジャーでの測定は1mm単位で、おおよその程度は把握できます。
細隙灯で拡大しての実測は0.5mm単位での測定が可能となりますが、
患者さんは眩しく、メジャーを瞳孔中央に合わせ、ぶれずに測定するのは困難です。
そのため、当院では0.1㎜単位での測定が可能、かつ赤外線の為、患者さんは眩しくない検査機器(アイドラ)で測定を行っています。
客観的数値が測定可能なため、患者様にも説明しやすいことが利点であると思われます。
当院での手術はすべて日帰りの為、帰宅後の安静度などのケアを患者さんが確認しやすいように、
術後の注意点や過ごし方をまとめた表を配布しております。
次に、内反症(逆さまつげ)は大きく分けて、加齢性下眼瞼内反と先天性下睫毛内反です。
加齢による下眼瞼に内反症は瞼板が内転することにより起こります。
当院では第一選択として埋没法を選択しています。
まず、Pinch test(下まぶたを前に引っ張って眼球から離れる距離を測定する検査)で水平方向の弛緩の程度を判断します。
・水平方向の弛緩が正常の場合→垂直方向の埋没法(Everting suture)
2カ所を垂直方向のみ矯正します。
・水平方向の弛緩が明らかな場合→水平方向の埋没法(Wide everting suture)
垂直方向と水平方向を短縮するように1本の糸で広範囲に通糸します。
再発の多いとされてきた垂直方向の埋没法も水平方向の弛緩がない症例には再発率が低く、
また、2種類の埋没法を使い分けることで、埋没法全体の再発率を低く抑えることができます。
埋没法で再発しやすい症例は、水平方向の弛緩が顕著な場合です(割合としては10%程度)。
そのような症例には眼瞼内反症の切開法Lateral tarsal strip(LTS)の追加が必要です。
先天性の下睫毛内反症とは、瞼板の向きは正常で、睫毛が眼球側に内反している状態です。
中等度の下睫毛内反に対しては、切開法のほうが再発は少ないことが無作為比較試験で報告されているため、
当院では、極軽度の症例を除いて、ほぼ全例に切開法(Hotz変法)を施行しております。
また、当院での睫毛内反で再発により再手術を施行した症例は、1.2%でした。
重度な睫毛内反で、下眼瞼牽引が強く、余剰皮膚が顕著な場合、
牽引の解除と多めの余剰皮膚切除で再発の防止を図ります。
内反症の手術は比較的短時間での手術が可能です。
2024年10月29日 執筆著書
あたらしい眼科 特集 眼瞼形成手術
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特集 眼瞼形成手術のAB▶Z
「眼瞼下垂症手術(Müller筋タッキング)」
Vol.41, No.10, P1167~1171, 2024
あたらしい眼科 林 憲吾
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眼瞼の筋肉(以後挙筋)は,挙筋腱膜とMüller筋に分かれ、瞼板という部位に付着しています。挙筋の収縮が瞼板に伝わることにより、目が開きます。
眼瞼下垂は、挙筋(挙筋腱膜とMüller筋)が薄くなったり、伸びたりすることにより筋肉の収縮が瞼板に伝わらない、あるいは挙筋群の変性や欠損によりその収縮性が低下していることが原因です。
そのため、開瞼の程度に合わせた手術が必要となります。また、挙筋機能がない重度の場合には前頭筋吊り上げ術が必要です。
本稿では、Müller筋タッキングを中心に解説しました。
①Müller筋タッキング(Müller’s muscle tucking)
挙筋腱膜とMüller筋の間を剥離し、Müller筋のみ瞼板上へたぐりよせて固定する術式です。
筋肉を動かす目安は、瞼板を引っ張って固定した状態で、瞼板から軽度で8mm、中等度で10mm、重度で12mm程度です。
Müller筋は柔らかく進展性がある組織のため、瞼縁が自然なカーブになりやすく、調整も挙筋腱膜前転より容易です。
また、中等度以上の眼瞼下垂でも目が閉じられなくなってしまう等の閉瞼不全は生じにくく、術後に起こる角膜の傷損が少ないのも特徴的です。
しかし、Müller筋タッキング法は極軽度な症例に少量のタッキングを行うと早期に再発する傾向があります。
そのため、極軽度な症例の場合は、挙筋腱膜前転法を施行しても角膜の傷損は少なく、再発も少ない挙筋腱膜前転法のほうが適していると考えられます。
また重度でMüller筋が非常に薄くなっている場合、12mm以上タッキングすると術中は大きく開瞼しますが、
術後早期に再下垂することが多いため、Müller筋タッキングは、中等度の眼瞼下垂に適していると考えられます。
➁Müller筋タッキングと挙筋腱膜前転法の併施術
挙筋腱膜とMüller筋の両者を前転する術式として,挙筋短縮術はスタンダードな術式ですが、挙筋短縮術には、瞼結膜とMüller筋の間を剥離する必要があり、局所麻酔の追加を行うため、術中に腫脹があり、手術中と術後開瞼の差が生じることがあります。
そこで挙筋短縮術の代用として、Müller筋タッキング(2点)を施行し、追加で挙筋腱膜の後面から腱膜の眼縁のカーブを確認し、腱膜後面から瞼板へ前転(1点)を追加する方法を解説します。
この術式は手術中と術後開瞼の差が生じにくく、比較的短時間で行えるため、患者様にとって負担が少ないのが特徴です。また脂肪の切除が必要な場合は、適量の脂肪を切除することも可能です。
また、Müller筋2点のタッキングでおおまかな開瞼の幅と形を決めて、挙筋腱膜(1点)を動かす量と瞼板に固定する位置によって、開瞼幅と瞼縁のカーブを微調整することが可能です。
さらに、術後1~2週間の抜糸時に,開瞼の左右差が1mm程度認められた際,挙筋腱膜の1点の再調整が5分程度で容易に施行可能です。
当院の調査では、Müller筋タッキング(2点)では開瞼不足な症例が12%にみられましたが、挙筋腱膜の後面から腱膜の前転(1点)を追加することにより、そのうち約90%の症例で開瞼幅の改善が得られました。また、腱膜前転も併用しているため、下垂の再発予防効果も期待できます。
また、低矯正となりやすい先天性の場合も、軽度から中等度であれば、挙筋短縮術と同様に、本術式も有用だと考えられます。
どの術式にも、メリット・デメリットはありますが、症例の重症度などを考慮し、最適な術式を選択することが大切です。
当院では、主にMüller筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併施術を行っておりますが、
・極軽度→挙筋腱膜前転法
・中等度→Müller筋タッキング
・中等度から重度→Müller筋タッキング+挙筋腱膜前転法の併施術
・挙筋機能のない最重度→前頭筋つり上げ術
を選択するなど患者様一人ひとりに合わせた術式を熟考し、選択しています。
2024年05月13日 国内学会発表・講演
第11回 日本眼形成再建外科学会学術集会(東京)教育セミナー
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教育セミナー:小児の眼形成手術
「小児の下眼瞼の睫毛内反症に対する手術」 林憲吾
今回東京で行われた、日本眼形成再建外科学会学術集会の教育講演:小児の眼形成再建外科にて
「小児下眼瞼の睫毛内反症に対する手術」について、解説させていただきました。
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小児による下睫毛内反症は、主に下眼瞼牽引筋群(LER:Lower eyelid retractors)の皮膚穿通枝が、
皮膚まで到達していないことが原因とされています。
先天性の下睫毛内反の場合、軽度には通糸埋没法を施行します。
中等度~重度には切開法として、代表的なHotz変法を施行します。
Hotz変法は皮下と眼瞼周囲との癒着を作り、睫毛の向きを変える手術です。
また、症例に応じて① 減張切開(Lid margin splitting)、② LERの切離、 ③ 内眥形成術(目頭切開)、④睫毛根電気分解などを併用します。
当院での9年間の下睫毛内反に対するHotz変法のデータを集計すると、1617眼瞼中19眼瞼(1.2%)に再手術を要しました。
どのようなタイプが再発、再手術となりやすいのか、自験例から注意点やその対策を述べさせて頂きました。
2024年04月23日 国内学会発表・講演
第128回 日本眼科学会総会(東京) 教育セミナー
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今回東京で行われた、
日本眼科手術学会学術総会の教育セミナーの眼形成分野で、
眼瞼下垂症手術「眼瞼挙筋前転」について、担当させて頂きました。
①挙筋腱膜前転法、②ミュラー筋タッキング、③挙筋短縮術、④ミュラー筋タッキング+挙筋腱膜前転法
4つの術式と眼瞼下垂症手術によるSPK(目の傷)の経時変化や、瞬目(瞬き)の変化について解説いたしました。
また、眼瞼下垂手術前に注意するべき症例として、
①上輪部角結膜炎(SLK)、②緑内障治療のプロスタグロンジン関連薬PG薬による上眼窩溝深化(DUES)
がある患者さんの眼瞼下垂が、術後ドライアイにより、症状が悪化するため、注意点と対策についても解説いたしました。
2024年02月07日 国内学会発表・講演
第47回 日本眼科手術学会術総会(京都)教育セミナー
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今回、京都で行われた、日本眼科手術学会学術総会の教育セミナーの眼形成分野で、眼瞼内反の手術について、担当させて頂きました。
加齢による下眼瞼内反症は、下眼瞼牽引筋群(LER)の垂直方向の弛緩と、眼輪筋や、内眥靭帯、外眥靱帯などの水平方向の弛緩によって、瞼板が内転する状態をいいます。
下眼瞼内反症の治療法として、大きく分けて、切開法と埋没法があります。
切開法として、代表的なJones変法とLateral tarsal strip(LTS)があります。Jones変法+LTSの組み合わせが、最も再発率が低く、理想的な術式ですが、手術時間が長く、患者さんへの負担も大きい手術となります。
今回は、短時間で低侵襲な手術方法として、2つの埋没法を解説しました。
①水平方向のテンションは正常に保たれている場合→従来の垂直方向の埋没法(Everting suture)
②水平方向の弛緩が明らかな場合→水平方向の広範囲な埋没法(Wide everting suture)
埋没法の利点として、手技が簡便で手術時間も短く低侵襲であること、また、ほぼ無出血で施行可能なため、抗凝固剤を使用している高齢者には、非常に有用と思われます。これらの内容を手術手技と手術前後の経過や注意点を含めて解説させていただきました。